飛べ

わーわー言うとります。

「笑い飯の漫才天国」

少し前に、たまたま観てた「よんチャンTV」でYMOの特集をしていて(なぜ今??)、その中で「YMOはセールスが上がろうと下がろうと『自分たちのやりたい音楽をやる』という方向性をブレさせなかった」という話から、司会の人だったかが曜日レギュラーのチュートリアルに「チュートリアルは自分たちのやりたい笑いとファンが求める笑いをどう分けていますか?」という質問をしていて、徳井さんが

「普段の劇場の寄席は必ずしも自分たちのコアなファンが来ているわけではないし、そういう人達に「あぁ、今日はチュートリアルが観れたなあ」と思っていただけるような漫才をしないといけない。逆に単独ライブは自分たちのファンが来てくれているので自分たちの見せたい笑いができますね」

というようなコメントをされていた。恐らく、多くの吉本の中堅~ベテランの芸人さんの指針もそれに近いのではないだろうか。

 

12月12日、日曜日。なんばグランド花月で「笑い飯の漫才天国 結成20+1周年記念ツアー」を観た。

当たり前といえば当たり前だけど、毎年開催されている笑い飯の単独ライブでは毎回数本の新作漫才がある。そしてそれらの新作はその後、ほぼ全く劇場でもテレビなどでも観られることなく、演られなくなっていく。

テレビの漫才番組に出ている時の笑い飯は、今も「M-1チャンピオンとしての笑い飯を観たい」という視聴者に向けて、あの延長線上のスタイルで漫才をしているように思う。劇場の普段の寄席で観られる笑い飯は、もっとぼんやりと「名前くらいは聞いたことある」くらいの、観光ツアーの一環や新喜劇目当てくらいで来たような中高年や、旧M-1の時代にまだ物心ついてなかったような世代にも届くような、もっと誰でも最初からついてこれるような題材で、ひとつひとつを噛み砕いて説明するように始まっていく(そして途中からめちゃくちゃ変なボケもする)ように思う。

笑い飯はずっと好きだけど、前はそういう使い分けが自分にはあまりわからなかった。劇場に観に行く度に同じテンポでハエやシンデレラのネタをしてるのがもうひとつ飲み込めきれなかったり、テレビでも新ネタでもっと面白いのあるんだからやってくれたらいいのに、って思ったりした。今はなんとなくわかるような気がする。年間で何百と舞台に立ち、今までに幾度となくテレビに出てきた人達だからこそ分かる使い分けがあって、その当人たちの判断がずっと正しいということだ。

そんな笑い飯の、劇場だから、テレビだから、という「使い分け」を外した漫才が、毎年の単独ライブでは観られる。そして、どういう何があったのかはわからないが、ここ数年、確実に笑い飯の漫才がさらに面白くなっている。と、少なくとも自分は感じている。

今年のツアーでは「鳥人」の再演もやっていたけど(たまにロープウェーだった回もあったみたいだけど)、今でもテレビでたまにやっているような鳥人とも、M-1の時の鳥人とも全然違う。台本でいうと、①②③④⑤…という順番にボケが(交互に)並んでいるとして、M-1の時はそれを一文字の無駄もなく切り詰めて、後半に向けて上がっていくような熱量とテンポで見せるようにやっていて、最近のテレビで観られる時の鳥人もそこまでガチガチじゃないにしても基本的に①から最後まで順にまっすぐ再生をしていく感じだとしたら、単独で見られるそれは、①から順に二人でやっていくことに変わりはなくても、途中で幾度となくものすごい脱線をする。そのうちの何割かは今回のツアーで全国を回りながら作られた(そしてどんどん長くなっていった)部分だったり、本当に今日の思いつきでボケだして止まらなくなっていそうな部分だったりするけど、そういう「あらかじめ決めておいたネタを一旦置いておいて、脇道にそれていくネタで漫才を続けていく(そして、よきところで本筋までまた戻ってくる)笑い飯」というのが、ちょっと数年前まであまり観られなかったし、そういう漫才をしている姿もちょっと想像できなくなっていた時期があって、今の笑い飯の単独の漫才は観ていて本当に面白いし、哲夫さんが自分の言いたい単語や人名で遊びだして止まらなくなっても西田さんがそれについていく感じとか、逆に西田さんが何回も何回も同じところでループし続けて哲夫さんがまだやるんかいって感じになってるのを西田さんがちょっと楽しんでるくらいの感じとかが、本当にすごくいい。そして勿論、漫才自体も今も物凄く面白い。ゲストの華丸大吉をして「袖で観ていて頭が痛くなった。50近くになって机エンジンとか考えないですよ」「パオーンを身体でハネ返すとか本気で言ってるんだから」と呆れさせるほどの創造性と、それを楽しみに観に来る人を、その期待以上の内容で笑わせてくる凄さが今年もあって、本当にああ、今年も笑い飯の単独が面白くてよかった…と思わされるライブだった。

なんか今回の単独はDVDが出るらしいので観て下さい。テレビでも普段の劇場でも観られない笑い飯がパッケージされて記録に残る、本当に数少ない機会になると思うので。

ていうか売れて欲しいのです。めちゃくちゃ売れて、昔のプラン9みたいに毎回の単独がDVDになればいいのに。